水溶性食物繊維「イソマルトデキストリン」の 炎症誘導物質産生抑制作用を確認
- 日本食物繊維学会第22回学術集会で発表 -

  • 研究開発

株式会社 林 原

このたび、NAGASEグループの株式会社林原(本社:岡山市北区下石井 代表取締役社長:森下治)は、グエルフ大学(カナダ)の峯芳徳教授らのグループと共同で、水溶性食物繊維「イソマルトデキストリン」の炎症性腸疾患モデルマウスに及ぼす影響を解析しました。その結果、イソマルトデキストリンを発症前から摂取させることにより、炎症を誘導する生理活性物質であるTNF-α およびIL-6の分泌を減少させることが分かりました。さらに、炎症誘導物質の産生に関わるToll様受容体4の発現を抑制していることも分かりました。今後、この研究をさらに進めることにより、腸管炎症と関連する疾患の予防・軽減に寄与することが期待されます。なお、この作用については、11月25日から開催される日本食物繊維学会第22回学術集会(東京都新宿区 国立健康・栄養研究所)において、発表いたします。

イソマルトデキストリン(IMD)は、酵素の作用によって澱粉から製造される水溶性食物繊維です。甘さはほとんどなく無臭で水によく溶け、安定性にも優れています。これらのことから幅広い食品・飲料に配合が可能で、慢性的な食物繊維不足を補い、健康的でよりよい生活の実現に貢献する素材として期待されています。すでにイソマルトデキストリンの生理機能として、腸内細菌叢改善作用、便通改善作用、血糖上昇抑制作用などが確認されています。

炎症性腸疾患の患者数は年々増加しており、日本では約20万人が罹患しています1)。炎症性腸疾患の原因としては、腸管バリア機能の低下や、炎症を誘導する生理活性物質の増加などが挙げられます。これまで林原は、低濃度(2.5%)のデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)で誘導した大腸炎モデルマウスにおいて、イソマルトデキストリンの投与が腸管のバリア機能を維持し、大腸炎症状を抑制することを報告しています2)。今回、高濃度(5%)のDSSで誘導した大腸炎モデルマウスにおいて、炎症を誘導する生理活性物質に与える影響を検討しました。

○試験方法
マウス(BALB/c、雌、6週齢)に、5% DSS溶液を8日間自由飲水させ、大腸炎を誘導しました。イソマルトデキストリンは0.5、1、2.5および5%の濃度で、DSS投与開始の15日前から連続して23日間自由飲水させました。DSS投与8日目に解剖を行い、大腸炎症状の評価、各種生理活性物質の測定を行いました。
また、イソマルトデキストリンで前処理した培養ヒト結腸上皮細胞に炎症を誘導し、イソマルトデキストリンの上皮細胞に対する抗炎症作用についても評価しました。

○結果
イソマルトデキストリンの投与により、体重減少や大腸の短縮などの重篤な大腸炎症状の改善は確認できませんでしたが、5% イソマルトデキストリン投与群(5% DSS+5% IMD)では、炎症を誘導する生理活性物質であるTNF-α およびIL-6の産生量がイソマルトデキストリン非投与群(5% DSS+水)に比べ有意に抑制され、炎症誘導物質の産生に関わるToll様受容体4の発現も抑制されました。

また、培養ヒト結腸上皮細胞の実験においても、イソマルトデキストリンは炎症を誘導する生理活性物質を抑制し、Toll様受容体4の発現を抑制することがわかりました3)

○今後の可能性
イソマルトデキストリンには、in vivoおよびin vitroのモデルにおいて、腸管の炎症を誘導する生理活性物質やそれらの産生に関わる受容体の発現を抑制する効果が確認されたことから、腸管炎症と関連する疾患の予防・軽減に寄与することが期待されます。

■イソマルトデキストリンとは・・・
林原が独自に開発した酵素の働きにより、澱粉から製造される水溶性食物繊維。多分岐α-グルカンの一種。イソマルトデキストリンは原料である澱粉に比べ、枝分かれ構造を多く有しており、消化されにくい性質を持っています。そのため、固形分当たり80%以上という高い食物繊維含量を示します。重量平均分子量は5,000で、カロリーは2kcal/gです。製造工程に酸触媒下での高温処理がないため、粉末は白色であり、水溶液の透明度は高く、また、溶解性にも優れ、20℃の水100 gに対し、70 g以上溶解します。においがなく、甘さもほとんどないため、食品に配合しても素材の味を損ねません。さまざまな生理機能として、腸内細菌叢改善作用、便通改善作用、下痢軽減作用、免疫調節作用、脂質代謝改善作用、血糖上昇抑制作用などが示されています。

■日本食物繊維学会第22回学術集会発表スケジュール
2017年11月26日 (東京都新宿区 国立健康・栄養研究所)
タイトル:「イソマルトデキストリンによるTLR-4発現抑制を介したDSS誘導性大腸炎マウス
モデルでの炎症軽減効果」

■参考
1)難病医学研究財団/難病情報センター
http://www.nanbyou.or.jp/entry/62 および http://www.nanbyou.or.jp/entry/81
2) Arai C, et al., Food Science and Technology Research, 23: 305-317 (2017)
3) Majumder K , et al., Journal of Agricultural and Food Chemistry, 65: 810-817 (2017)

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