水溶性食物繊維「イソマルトデキストリン」で新知見
血糖上昇抑制作用のメカニズムを作用解析で確認 低用量での効果も併せて報告
- 第72回日本栄養・食糧学会大会で発表 -

  • 研究開発

株式会社 林 原

このたび、NAGASEグループの株式会社林原(本社:岡山市北区下石井  代表取締役社長:安場 直樹)は、前橋工科大学(前橋市)の薩 秀夫(さつ ひでお)准教授らのグループと共同で、水溶性食物繊維「イソマルトデキストリン」の血糖値の上昇抑制作用のメカニズムを解析しました。その結果、イソマルトデキストリンが濃度依存的にグルコーストランスポーターを阻害することで、グルコースの腸からの吸収を抑制している可能性があることがわかりました。今後、この研究をさらに進めることにより、血糖値の上昇と関連するメタボリックシンドロームや糖尿病の予防に寄与するものと期待されます。
なお、この作用メカニズムと低用量2.5 gでの効果の報告も併せて、5月11日から開催される第72回日本栄養・食糧学会大会(岡山市、総社市)において、発表いたします。

イソマルトデキストリンは、酵素の作用によって澱粉から製造される水溶性食物繊維です。甘さはほとんどなく無臭で水によく溶け、安定性にも優れています。これらのことから幅広い食品・飲料に配合が可能で、慢性的な食物繊維不足を補い、健康的でよりよい生活の実現に貢献する素材として期待されています。すでにイソマルトデキストリンの生理機能として、腸内細菌叢改善作用、便通改善作用、血糖上昇抑制作用などが確認されています。

現代社会においては、食生活の多様化と運動機会の減少に伴い、メタボリックシンドロームの増加が問題となっています。特に、食後高血糖は2型糖尿病発症に先んじて現れ、糖尿病ではごく一般的な現象となります1)。日常生活において食後の血糖値を管理し、その上昇を穏やかにすることは、メタボリックシンドロームや糖尿病を予防するために、重要であると考えられています。このような背景のもと、これまで林原ではイソマルトデキストリンのグルコース摂取後の血糖値の上昇抑制作用を確認しており2)、今回、その作用メカニズムおよび低用量化について、一連の検討を行いました。

○試験方法と結果
1. イソマルトデキストリンの血糖上昇抑制作用のメカニズムを検証するために、ラット反転小腸を用いたex vivo試験において、イソマルトデキストリンのグルコース吸収に与える影響について検討しました。その結果、反転小腸外液にイソマルトデキストリン(60 mg/dL)を添加した場合、イソマルトデキストリンを添加しない場合に比べ、内液のグルコース濃度は有意に低値を示し、吸収が抑制されることがわかりました2)。また本現象はグルコーストランスポーター阻害剤でおこる現象と同様であることから、グルコーストランスポーターへの関与が示唆されました。

2. ラット反転小腸試験において、イソマルトデキストリンのグルコース吸収抑制作用に、グルコーストランスポーターの関与が示唆されたため、グルコーストランスポーター高発現細胞株を用いてイソマルトデキストリンの作用を検討しました。その結果、イソマルトデキストリンが濃度依存的にナトリウム共輸送型グルコーストランスポーター1(SGLT1)活性およびグルコーストランスポーター2(GLUT2)活性を阻害することで、グルコースの腸からの吸収を抑制している可能性があることがわかりました。

3. 血糖値の比較的上がりやすい健常な被験者23名を対象に、グルコース50 gとイソマルトデキストリン2.5 gを含む水溶液、またはグルコース50 gのみを含む水溶液を摂取させ、それぞれを摂取したときの血糖値を比較しました。その結果、グルコースのみを摂取したときに比べ、イソマルトデキストリンを同時に摂取したときには摂取後45分の血糖値および摂取前からの血糖値の変化量(Δ血糖値)が有意に低値となり、被験者個々の血糖値の頂値(Cmax)も有意に低値になりました。以上のことから、イソマルトデキストリンは2.5 gの用量でグルコース摂取後の血糖値上昇を抑制することが明らかとなりました3)

また、イソマルトデキストリンに関連する発表として、これら血糖上昇抑制作用関連の3題に加え、食事量抑制作用についても発表する予定です。

○今後の可能性
グルコース摂取時にイソマルトデキストリン2.5 gを同時摂取することにより、血糖上昇抑制作用が確認され、そのメカニズムの一端が明らかになりました。水溶性が高く、食品への配合が容易なイソマルトデキストリンは、血糖値を気にする現代人の様々な食事シーンにおいて、広く活用が期待されます。

■イソマルトデキストリンとは・・・
林原が独自に開発した酵素の働きにより、澱粉から製造される水溶性食物繊維。多分岐α-グルカンの一種。イソマルトデキストリンは原料である澱粉に比べ、枝分かれ構造を多く有しており、消化されにくい性質を持っています。そのため、固形分当たり80 %以上という高い食物繊維含量を示します。重量平均分子量は5,000で、カロリーは2 kcal/gです。製造工程に酸触媒下での高温処理がないため、粉末は白色であり、水溶液の透明度は高く、また、溶解性にも優れ、20 ℃の水100 gに対し、70 g以上溶解します。においがなく、甘さもほとんどないため、食品に配合しても素材の味を損ねません。様々な生理機能として、腸内細菌叢改善作用、便通改善作用、下痢軽減作用、免疫調節作用、脂質代謝改善作用、血糖上昇抑制作用、炎症誘導物質産生抑制作用などが示されています。

■第72回日本栄養・食糧学会大会発表スケジュール
2018年5月12日 (総社市 岡山県立大学) 15時05分~15時53分
1.イソマルトデキストリンのラット反転小腸におけるグルコースおよびフルクトース吸収抑制作用
2.イソマルトデキストリンの腸管上皮グルコーストランスポーターに対する作用解析
3.イソマルトデキストリンの血糖上昇抑制作用(低用量化の検討)
4.イソマルトデキストリンの食事量抑制作用

■参考文献
1) International Diabetes Federation, 2007 Guideline for Management of PostMeal Glucose in Diabetes (2008)
2) Sadakiyo T, et al. Food&Nutrition Reserch, 61 (1):1325306 (2017)
3) Ishida Y, et al. Jpn Pharmacol Ther, 45 (7), 1179 (2017)

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