研究開発Research and Development

林原 研究開発ストーリー 無色無臭で配合しやすい! 水溶性食物繊維「イソマルトデキストリン」

イソマルトデキストリンは、腸内環境の改善や、便通改善、免疫調節、血糖上昇抑制などさまざまな生理機能をもつ水溶性食物繊維。水溶液は無色で臭いがなく、甘さもほとんどないため、白米やうどんといった白色の食品や風味を大切にする食品にも、無理なく配合できるメリットがあります。
イソマルトデキストリンは、社内において早くから研究されていた素材でしたが、上市までには10年以上の歳月を要しました。研究そのものに加え、「世に出す」プロセスにも多くの苦難があったという、この開発の歴史をたどってみましょう。

菌のコロニー
(黒い紙の上で撮影)

酵素の力で作る食物繊維

イソマルトデキストリン開発の起点は、2003年にさかのぼります。1995年に大型製品・トレハロースを送り出し、次なるヒットが期待されていた当時の社内。これに応えるものとして、林原得意の酵素反応の手法を用い、新しい難消化性の多糖(食物繊維)を作ろうという開発テーマが定められました。
この生成に必要なのは、でん粉の分子結合を切断し、消化されない形につなぎ変えてくれる酵素。これを探すために、トレハロースの開発と同様に、たくさんの土壌サンプルを集めることから研究は始まりました。まず、土壌の中からひとつひとつ菌を分離します。そして、菌の培養液をでん粉に加えて菌が出す酵素を作用させ、その後で消化酵素を加えて反応を見ます。もし、消化酵素によってぶどう糖に分解されなければ、難消化性の多糖ができている、というわけです。つまり、その菌が、でん粉を難消化性の多糖に変化させる酵素を作り出していることになります。

長い回り道を経て量産成功

やがて、何千もの土壌サンプルの中からその特性を示す菌が見つかりました。その菌の培養液をでん粉に加えると、消化酵素で分解されない多糖が生成し、その多糖はたくさんの枝分かれを持つユニークな構造であることがわかりました。研究チームは、この多糖をイソマルトデキストリンと命名。程なくして菌の培養液の中から一つの酵素を見つけ出すことができました。しかし、その酵素を使って実験を繰り返しても、なぜかイソマルトデキストリンを生成させることができません。また、この菌は培養するとドロドロになって扱いづらく、工業化には向かないという欠点も抱えていました。以来2年もの間、チームは長いトンネルの中をさまよっていました。
2006年、打開策として「チーム替え」を敢行。例えば同じ料理のレシピでも、作る人によってできあがりがまちまちになるように、研究も人それぞれの微妙な手ぎわの違いで、まったく別の結果になることは珍しくありません。人を変えることで、劇的な変化が起きる可能性に賭けたのです。
研究を引き継いだのは、渡邊光研究員が所属するチーム。前チームの苦労を近くでずっと見てきた渡邊研究員の頭には、次に検証するべき仮説がうっすらと浮かんでいました。それは、イソマルトデキストリンの生成には二つの酵素が必要なのではないか、ということ。実はトレハロースなども、二つの酵素によって作られているのです。新チームは、この仮説に基づいて研究をすすめていきました。

2つ目の酵素を発見した渡邊光研究員

イソマルトデキストリン構造式培地の成分や温度などの条件を変えて菌を培養

「これだ!」・・・ついに、渡邊研究員が二つ目の酵素を発見。結局、最初の菌が、二つの酵素を一緒に作り出していて、その二つの酵素がでん粉を消化されにくい物質に作り変えているのだとわかりました。しかし、二つの酵素を出すこの菌は扱いづらく、工業化が難しいという問題を抱えたまま。同様の二つの酵素を出し、かつ性質のよい菌はないか・・・。再び黙々と菌を探すものの成果が得られず、「ならば、培養するとドロドロになってしまう最初の菌の性質を、改良して使うしかない」との結論に至りました。
菌の性質を目的に応じて改良することについては、社内に専門チームがありました。100本以上のフラスコで、菌のエサとなる培地の成分や温度などを少しずつ変えて培養。状態のよいものを抽出していくと、1年後には見事、扱いやすいサラサラの菌に生まれ変わりました。
この菌を用い、2007年、数百kgスケールの製造に成功。「これでいける!」・・・チームは上市への強い確信をもちました。

物性や機能性のデータをひとつひとつ積み重ねていく

もっと付加価値が欲しい

しかしその後2年、3年とたっても、イソマルトデキストリンはまだ日の目を見ることなく、研究部門にとどまったまま。当時の林原は、研究部門が独自にテーマを設定して研究を進め、開発部門がその中から市場性のありそうなものをピックアップして商品化するという流れになっており、イソマルトデキストリンについては、開発部門から「もっと際立った独自性が示されなければ上市はできない」との意見が出ていたのです。
酵素の力で作るイソマルトデキストリンは、酸性下で強く加熱して製造される他の水溶性食物繊維と比較して、色や臭いがなく、加熱や冷蔵・冷凍をしても変性しにくいなど大きなメリットがあります。これら物性としての利点に加え、血糖値の上昇を穏やかにする、体内の中性脂肪を減らすといった数々の生理機能があることを、研究員たちは実験によってひとつひとつ裏付けていきました。
そんな折の2011年2月、林原が会社更生法を適用。研究は完全に頓挫してしまいます。

社内初・部門を越えた連携プロジェクト

「厳しい時期でしたが、その間には、産官学からたくさんの応援や励ましをいただきました」と渡邊研究員。周囲の支援に支えられ、チームは地道にできることを続けます。2011年10月にはアメリカの学会で発表し、持参した資料が足りなくなるほどの大反響。「必ずニーズはある」、渡邊研究員はさらに確信を強めました。
2012年2月、ようやく会社更生の事態が収束し、長瀬産業の傘下で再スタートを切った林原。新体制になって第1弾、新生林原をアピールし、勢いづけられる新商品がほしい…そこで白羽の矢が立ったのが、イソマルトデキストリンでした。ちょうど、世界的に食物繊維需要の伸長が期待されはじめていた時期でもありました。
破たんという大きな危機を乗り越えた社内は、新しい希望と挑戦意欲に満ちあふれていました。これまで別会社に分かれていて接点の少なかった研究開発と営業、製造部門もひとつに統合され、組織の壁にとらわれず力を結集しようというムードの後押しを受けて、2013年4月、社内初となる部門を超えた全社的プロジェクト「チーム・イソマルトデキストリン」が発足したのです。
渡邊研究員がリーダーとなり、研究開発と全体のとりまとめを担当。まずは、将来の海外展開を視野に入れて、林原製品の海外販売を担う長瀬産業からプロダクトマネジャーを迎えました。食品の用途開発・レシピ開発を担う「L’プラザ」や、製造部門からも専任スタッフが集まり、上市に向けて万全の態勢が整いました。

プロジェクトチームのメンバー

外部機関にも積極的に評価を依頼し、健康への効果が裏付けられる多くのデータが蓄積されていきました。さらに、アメリカ食品医薬品局(FDA)の一般的に安全な食品であるとの「GRAS」認証も取得。これまでにない新しい素材だからこそ、世の中に認めてもらうためにあらゆる手段を尽くしたのです。
そうして2015年、ついに新しい水溶性食物繊維素材・イソマルトデキストリンが世に送り出されました。

世界に必要とされる素材を目指して

各種の展示会で生理機能や配合メリットを積極的にアピール

上市以後も研究が重ねられ、新たな機能が確認され続けているイソマルトデキストリン。食品への配合のしやすさや、腸内環境を整えるといった生理機能のほか、食感の向上などについても十分にアピールできることがわかってきました。現在、機能性表示食品への採用の対応をすすめており、さらなる販路の拡大が期待されています。
プロジェクトにとって、上市は決してゴールではありません。食品メーカー等への説明には渡邊研究員も同行し、研究者の立場から営業をサポートするなど、チームはますますタッグを強化。この素材の価値をもっと広く伝え、世界中の人においしさと健康を届けられるよう、これからも奮闘は続きます。